山粧うとき「冬隣」に牡蠣をしみじみ食す
霜降の末候_「楓蔦黄む/もみじ つた きばむ」 この時候の旬菜「牡蠣/かき」をいただきます。
楓蔦黄_11月2日から11月7日
紅葉といえば楓ですが、この時候には、蔦とともに燃えるような鮮やかな赤に色づいて山を化粧します。
これが季語の「山粧う/やま よそおう」ですが、他にこの時候の季語として〈秋の暮〉〈行く秋〉〈末枯れ/うらがれ〉などがあります。
そんな時候の季語の中でも〈冬隣/ふゆどなり〉は、特に趣を感じる言葉です。
冬は隣にあるが、まだ秋の暮れ、木々の先端が枯れ始める末枯れをそこそこに観ることはできるが、まだ山は楓や蔦の紅葉で粧っている。行く秋を見送るにはまだもう少し時があるという、この秋と冬の季節の縫い代のような時候を〈冬隣〉は表しています。
この言葉に、日本人の季節の移ろいをしみじみと味わうという情趣「あわれ」「惜しむ」という感性を、とても感じることができます。
同じくこの時候の季語に〈牡蠣〉があり、松尾芭蕉に次の句があります。
牡蠣よりは 海苔をば老の 売りもせで
老婆が牡蠣を売っているが、もっと軽くて扱いやすい海苔を売れば良いものを、と、詠んでいます。
この時期、すでに隠遁生活に入っていた芭蕉が、老婆の姿におのれの姿をダブらせ、人生の暮と、牡蠣の季節の〈末枯れ〉の侘しさを詠ったように感じられます。
芭蕉の胸中を推し量りながら、しみじみと牡蠣をいただきましょう。
牡蠣/かき_滋養たっぷり〝海のミルク〟
イタボガキ科の二枚貝。種類が多く、日本近海では20種類ほどを食用とするが、市場に流通するのは「真牡蠣」「住之江牡蠣」「板甫牡蠣」「岩牡蠣」の4種。殻は楕円形、左右非対称で、片側が丸く(身殻)、片側は平ら(蓋殻)で、丸い殻で岩にくっついて棲息。漢字で「牡/おす」の字を当てるのは、全て雄と考えられていたためで、現在は雌雄同体でしばしば性転換することが判明している。日本では貝塚から殻が出るほど古くから食べられていた。
【選び方】傷がなく盛り上がっているもの、一口で食べられる大きさが良い。パックのむき身は、身が厚くてパック中の液体が透明なものを、生で食べる場合は、紫外線殺菌灯で無菌にした海水に一定期間置いた「生食用無菌牡蠣」と記されたものを。「加熱用」は無菌化をしていないだけで鮮度が悪いわけではない。
【旬の時期】11月から3月頃に、旨味と甘味が増加。英語に「Rのつかない月(5月から8月)は牡蠣を食べるな」、日本では「花見をすぎたら牡蠣食うな」ということわざがある。
【漁獲地】天然真牡蠣は、北海道の厚岸やサロマ湖など、養殖ものは広島県が6割を占め、宮城県、岡山県なども
【栄養】栄養価に優れ〝海のミルク〟と呼ばれる。ビタミン類や鉄・銅・亜鉛などのミネラル、タウリンが豊富、疲労回復に役立つグリコーゲンが含まれ、その量は冬は夏の10倍も多くなる。
日本料理「山さき」
山﨑美香 料理長「かき豆腐」
豆腐にしみ込んだかきの旨味があとを引くおいしさ。
日本料理「分とく山」
野﨑洋光 シェフ「かき友禅漬け」
三色の彩りがゲストの笑顔を誘う、おもてなし料理にぴったり!