「さんま」を「秋乃魚」「秋刀魚」と書くのは、みなさんご存知だと思いますが、実は、昔からのことではありません。
実は、明治時代には「三馬」と書いていました。
夏目漱石の『吾輩は猫である/明治三十八年※1』に「さんま」が出てきますが、「秋乃魚」ではなく「三馬」と書かれています。
「秋乃魚」という時は、大正十年の佐藤春夫『秋乃魚の歌※2』から使われ始めて、今ではこちらが定番となってしまっていますが、
魚市場では、いまでも「さんま」を買うと伝票には「三馬」と書かれています。
江戸時代では「サイラ(佐伊羅魚)」や「鯵」「鱧」の字を当てたりもしていました。
元々は「サマナ(狭真魚)」が転じて「サンマ」になったと考えられています。
また熱目漱石の『我輩は猫である』の中では、サンマに合わせる大根おろしの〝でんぷん分解酵素ジアスターゼ※3〟も登場し、文学の中にある食味であります。
〈※1三馬/『我輩は猫である』冒頭近く「此間(このあいだ)おさんの三馬を偸(ぬす)んで此返報をしてやつてから…」〉
〈※2佐藤春夫『秋刀魚の歌』/あはれ 秋風よ 情〔こころ〕あらば伝へてよ――男ありて 今日の夕餉〔ゆふげ〕にひとり さんまを食〔くら〕ひて 思ひにふける と。・・・さんま、さんま さんま苦いか塩つぱいか。〉
〈※3ジアスターゼ/猫「吾輩」の飼い主、珍野苦沙弥(ちんの くしゃみ)は、毎食後にはタカジアスターゼを飲む。珍野苦沙弥は、漱石自身がモデルとされ、実際、漱石は胃腸が弱くタカジアスターゼ※4を毎食後服用していた。〉
〈※4タカヂアスターゼ/三共製薬の創業者である高峰譲吉が、麹菌からジアスターゼを抽出し、明治27(1894)年に特許を申請。〉
三馬
狭真魚と三馬と秋刀魚
滋味
秋を知らせる魚
サンマ科。背が青い全長40cmほどの魚。北海道から九州まで、太平洋側と日本海側に分布する。
水温14℃から15℃の海を求め、春から秋には北上して千島列島まで達し、8月中旬頃、親潮に乗って本州沿いを南下する。
漁獲の時期によって脂肪の量が極端に変わり、10月頃、三陸沖から九十九里浜沖で採れるものは20%も脂肪を持つが、12月頃、紀州沖に南下する頃には痩せて脂肪は少なくなり、さっぱりした味だが、これは干物に最適となる。日本海側を回遊するサンマは、太平洋側に比べると量が少なめ。
秋の到来を知らせる魚で、塩蔵品や干もの、缶詰も多彩、養殖はない。
【選び方】青い色が冴え、皮が剥けていないもの。
【旬の時期】秋に脂がのる。
【漁獲地】北海道、宮城県、岩手県、千葉県など。
【栄養】タンパク質よりも脂肪が多く、DHA、EPAが豊富、ビタミンやミネラルも多く含む。
〈DHA_ドコサヘキサエン酸/血中の脂肪を減らす働きがある不飽和脂肪酸〉
〈EPA_エイコサペンタエン酸/中性脂肪が溜まるのを防ぎ、血栓を防ぐ不飽和脂肪酸〉
以上、野﨑洋光『料理上手になる食材の基本/世界文化社』より
動画
「分とく山」野崎洋光料理長「秋刀魚について」
レシピ例 弐
フランス料理「ル・スプートニク」
髙橋雄二郎 料理長「さんまのマリネとマスカット ワタのソース」
塩でしめたさんまを、相性のよいマスカットと前菜仕立てに▲画像をクリックすると料理塾のレシピへ移動いたします
中国料理「麻布長江」
田村亮介 料理長「さんまの瞬間お茶スモーク 酸白菜添え」
さんまの新しい美味しさを堪能できる、茶葉を使った手軽なスモーク